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福岡地方裁判所 昭和30年(行)19号 判決

原告 企業組合大村美粧院

被告 福岡国税局長

訴訟代理人 今井文雄 外三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

一、原告は、「被告が原告に対し昭和三十年六月一日附でなした昭和二十八年事業年度法人税審査決定はこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求める旨申立て、請求の原因事実として次の通り述べた。

訴外福岡税務署長は、原告が昭和二十九年五月三十一日附で申告した昭和二十八年事業年度(昭和二十八年七月二十一日より同二十九年三月三十一日まで)法人税について、昭和二十九年十月二十二日附で所得額八万七千七百円、法人税額三万六千八百三十円と更正したので、原告は同訴外税務署長に再調査の請求をしたところ、同訴外人は該請求の一部につき理由ありと認め昭和三十年二月十八日附で所得額を三万五百円、法人税額を一万二千八百十円とする旨決定した。そこで原告は右再調査決定を不服として昭和三十年三月十九日被告に対し審査の請求をしたところ、被告は同年六月一日付で該請求の全部についてその理由がないとしてこれを棄却する旨の決定をなした。しかしながら原告の昭和二十八年度に於ける営業収入は金五十四万二千三百六十円であるに比し、総損金は金五十九万七千七百五十四円であるから、その差額金五万五千三百九十四円の欠損であるから其の旨申告したのであるが被告の認定は原告の右主張を無視したものであつて、他の同種営業者で同一の生活状態にあるものと比較すると前記認定の所得額、法人税額は何れも過大であり、又原告の該年度における経営は苦しく何等固定資産をうることなく負債は約十万円増加してをり、その所得は前記のように欠損となるものであるから、被告の前記審査の請求を棄却した処分は違法であり、原告の権利を毀損するものである。故に被告の前記処分の取消を求めるため本訴に及んだものである。

二、被告指定代理人は、主文同旨の判決を求め、答弁並びに主張として次の通り述べた。

原告が昭和二十八年事業年度法人税について訴外福岡税務署長に対して為した申告に対し同署長より原告主張の日主張の如き更正決定がなされ、原告がその主張の如き経過を経て同署長、被告に対しそれぞれ再調査請求、審査請求をなし、被告に於て原告主張の日主張内容の審査の決定があつたことは何れも認めるが右年度に於ける原告の所得に関する原告の主張事実は否認する。被告の調査によると、総益金は六十三万千七百三十円、総損金は五十八万五千五百四円であり、その差額四万六千二百二十六円の所得があるので、その範囲において所得額を三万五百円と認定した。原告の提出した損益計算書によれば原告の係争年度の利益率は六分六厘であり、一般美容業者の六割五分に比し著しく過少である。そこで原告備附の売上日報、仕切書、領収書等を詳細検討したところ不合理な点があり、そのうちでコールド・パーマの収入金額についてのみ脱漏額と認められる八万九千三百七十円があつたのでこれを原告の前記営業収入に加算して被告の主張する営業収入が出たのである。即ち売上日報によりコールド・パーマの収入金額を集計したところ、人員六百四人分、合計金額二十二万五百十五円となつた。然しながら、該年度のコールド・パーマ用材料液の消費量は大瓶百七十八本、小瓶二十四本であり、コールド液一瓶は大瓶五人分、小瓶一人分であるので、以上の消費量は九百十四人分に相当する。これにより従業員自身の使用量として二十人分(従業員五人として一人が二ケ月一回の割)及び取扱上の液損耗量として四十五人分(全使用量の五%の割)を各控除すると該年度のコールド・パーマ施行の人員は八百四十九人となる。そこでコールド・パーマ一人分の料金三百六十五円に右人員を乗ずると収人金額三十万九千八百八十五円が算出される。これを原告の記帳する前記収入金額二十二万五百十五円との差額八万九千三百七十円が脱漏金額と推計され、これを原告の前記営業収入五十四万二千三百六十円に加算すると、被告の主張する営業収入六十三万千七百三十円が算出されるわけである。従つてこれを基礎とする前記所得額、法人税額の認定は相当であり、被告の本件審査決定には何等違法はないものである。

三、原告は被告の前記主張に対し更に次の通り述べた。

売上日報によりコールド・パーマの収入金額を集計すると人員にして六百四人分、合計金額にして二十二万五百十五円となること、該年度のコールド液消費量が大瓶百七十八本、小瓶二十四本であり、その使用量が九百十四人分に相当することはこれを認めるが、従業員自身の使用量が二十人分に相当し、取扱上の液損耗量が四十五人分に相当すること、コールド・パーマ一人分の料金が三百六十五円であることは否認する。その余の主張事実はこれを争う。従業員自身の消費量は開店当初で宣伝等のため従業員がモデルになること多く該期間中百七十七、八人分(従業員三、五人が五人に一回として)を消費している。損耗料として従業員の技術不充分のため大瓶五人分を四、五人にしか使用できず、それにより九一、四人分を損耗している。以上両者の消耗量合計二百六十九、二人分と売上日報による集計人員六百四人分の合計八百七十三、二人分を上記消費可能人員九百十四人分より減じた四十、八人分(仕入量の四、五%相当)がまた別のコールド液硝子瓶の破損による損失量である。従つて、原告備附の売上日報による六百四人分以外はすべて消耗量等に属するので、結局収入額二十二万五百十五円が正当である。又、売上については美容師が日報に記帳して現金と共に会計係に交付していたもので、売上収入が事実と相違しているならば従業員が不正に領得しているものと推量され原告の収入とはなつていないものである。

〈立証 省略〉

理由

原告がその昭和二十八年事業年度法人税について訴外福岡税務署長に対して為したる申告に対し、同署長より原告主張の日、主張の如き更正決定がなされ、原告が同署、被告に対しそれぞれ主張の如き経過を経て再調査請求並びに審査の請求があり、被告より原告主張の日、主張の如き審査決定があつたことは当事者間に争がない。

原告は昭和二十八年度所得について営業収入は金五十四万二千三百六十円、総損金は金五十九万七千七百五十四円であつたから金五万五千三百九十四円の欠損を蒙つたにかゝわらず、右の事実を無視し他の同種同程度の営業者に比し著しく過大に所得額三万五百円、法人税額一万二千八百十円と認定した被告の処分は違法である旨主張し、被告は、原告の該年度の所得の主張は主としてその営業収入につき金八万九千三百七十円脱漏していることに基くものであつて、被告の調査によれば営業収入は金六十三万一千七百三十円で総損金は金五十八万五千五百四円であるから、その差額は金四万六千二百二十六円と算出されるところ、被告はその範囲内である金三万五百円を以て原告の所得なりと認定して決定したものであるから何等原告主張の如き違法はないと主張する。そこで先づ原告の該年度営業収入中、コールド・パーマの収入部分について被告の主張するような八万九千三百七十円の脱漏額が存するか否かを判断する。原告備附の売上日報により該年度のコールド・パーマの収入金額を集計すると人員にして六百四人分、合計金額二十二万五百十五円となること、該年度のコールド・パーマ液消費量は大瓶百七十八本、小瓶二十四本であり、それが人員にして九百十四人分に相当することは当事者間に争がなく、しかして証人安田弘の証言、同西田タマヱの一部証言並びに弁論の全趣旨を綜合すると、原告は当該年度は美容師約五人を擁して新たな営業開始後に当つてはいたが、原告は現所在地の近傍に存した「リリー美容院」なるものゝ経営の一部や従業員等を引継いで営業を長年続けている同業者と実質上変らぬものがあつたから、従業員五人の該年度におけるコールド・パーマ液使用量は他の同業者の例にならい一人二ケ月一回の割で約二十人分程度とするを相当とし、取扱上の同液損耗量としても他の同業者の場合に照して約四十五人分程度とするを相当とすることが認められる。以上の認定に稍抵触する証人西田タマヱの供述部分はこれを信用しないことゝし、他にこれを左右するに足る証拠は存しない。そして原告主張のコールド液瓶の破損等による損耗量部分は前記取扱上の損耗量部分に含ませるを相当とするし、又原告主張の従業員がコールド・パーマ収入の一部を不正に領得した事跡の如きは本件証拠上これを認めることができない。

こうして、前記コールド・パーマ液消費量九百十四人分より従業員自身の使用量二十人分と取扱上の損耗量四十五人分以上合計六十五人分を控除すると八百四十九人分となり、これが原告においてコールド・パーマに関し収入をあげた人員分となるが、前記のように売上日報によるとコールド・パーマの収入部分は人員にして六百四人、金額にして二十二万五百十五円であるから、一人当りの平均料金は約三百六十五円となることは計数上明かというべく、これに前記八百四十九人を乗ずると収入金額として三十万九千八百八十五円が算出される。これより前記売上日報による収入合計額二十二万五百十五円を差引くと八万九千三百七十円が算出され、これは原告のコールド・パーマ売上の脱漏金額として推計されるものになる。そこでこれを原告主張の前記営業収入五十四万二千三百六十円に加算すると営業収入は六十三万千七百三十円となる。故に総損金が仮に原告主張の金額の通りであるとしてもその差額は金三万三千九百七十円となり訴外税務署長の認定額である金三万五百円より上廻る額となるから、原告の所得に対する右税務署長の認定額を基礎とする本件法人税額の認定は相当であつて、原告主張の如き違法はなく、従つて原告の右主張を排斥した被告の本件審査決定に違法はないというべきである。

よつて、原告の本訴訟上の請求は理由がないからこれを棄却することゝし、民事訴訟法第八十九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 小野謙次郎 大江健次郎 奥輝雄)

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